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これまでは,最高裁判例の考え方は,遺留分減殺請求権は形成権で物権的効力があるとするものでした。これによると,遺留分減殺請求権を行使すると,その減殺の目的となった財産について,受遺者・受贈者と遺留分権利者が共有状態になってしまっていました。
目的の財産が不動産であれば,当然に共有となり,預貯金であればそれも準共有となっていました。
このような状況は,遺言者が事業承継者を受遺者・受贈者として事業用不動産や株式や営業上の債権などを遺贈しようとしても,それらについて遺留分権利者から遺留分減殺請求をされてしまうと,受遺者・受贈者と遺留分権利者とで共有の関係となってしまい,事業承継を消極化させる要因となっているなどの問題点がありました。
1.金銭支払請求権となった
遺留分減殺請求により,対象の目的物について,権利取得の効力を失わせ当然に共有となるのではなく,遺留分を侵害された者は,受遺者・受贈者に対し,遺留分侵害額請求をすることにより遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができるようになりました。つまり,金銭支払請求権としての制度に改めたわけです。
旧法では,遺留分減殺請求を受けた受遺者・受贈者は,現物を返還して,遺留分権利者から請求を免れる事とされていましたが,改正後は,現物の返還を認めないこととなりました。もっとも,遺留分権利者と受遺者との間で,お金の代わりに不動産などの現物を渡す契約(代物弁済契約)を締結し現物で給付することは可能です。ただし,税金面で注意が必要で,代物弁済によって金銭支払債務が消滅した分だけ受遺者は利益を受けたと言うことで,譲渡所得税が課税されることとなっています。
2.受遺者・受贈者が請求を受けた場合の負担額
(1)受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。
(2)受遺者が複数あるとき,受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的に価額の割合に応じて負担する。ただし,その遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
(3)受贈者が複数ある場合(上記(2)の場合を除く)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受遺者が負担する。
3.受遺者・受贈者のための措置
「裁判所は,受遺者又は受贈者の請求により,第1項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる」と定められました。
つまり,受遺者・受贈者の事情に応じて,その支払について裁判所の許可を得て,期限の猶予をもらえるということです。
4.遺留分侵害額の算定の基礎となる価額
改正後の相続法においては,相続人に対する贈与のうち,遺留分侵害額の算定の基礎となる価額に算入されるのは,相続開始前の10年間にしたものに限定される(相続法改正後の民法1044条③)こととなりました。
逆に考えますと,亡くなる10年以上前に生前贈与をしていれば,他の相続人の遺留分請求を免れる事ができることになります。
1 受遺者又は受贈者は,次の各号の定めるところに従い,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として,遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。
2 第九百四条,第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は,前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。
3 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは,消滅した債務の額の限度において,遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において,当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は,消滅した当該債務の額の限度において消滅する。
4 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は,遺留分権利者の負担に帰する。
5 裁判所は,受遺者又は受贈者の請求により,第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
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